(3)安全で確実な着陸の仕方

<飛行機とヘリコプターの違い> 空モノのラジコンには大きく分けて飛行機とヘリコプターがありますが、その着陸の方法には 大きな違いがあります。ヘリコプターの場合は初歩の段階でまずホバリングを覚えることから 始めなくてはなりませんので着陸の基礎そのものを最初から練習することになります。 ヘリコプターの着陸プロセスは上空飛行〜ホバリング〜着陸ということになりますので、離陸 〜ホバリングをマスターしなければなりません。その間、ホバリングを完全に覚えるまで長い 時間を掛けて機体に慣れ親しむことが出来ます。 そして充分に自信が付いてから満を持して上空へ持って行くようになる訳です。 ホバリングを覚えただけで終わってしまう方もおりますが、それでもヘリコプターのなんたる かは一応、身に付けますので満足される方も大勢いるのです。 しかし飛行機の場合はプロセスそのものがまったく違ってきます。 とにかく上空へ上げなければなりませんので、慣れていなくてもいきなり飛行させ続けなけれ ばなりません。着陸はその最後でしか経験できませんので飛ばすことで精一杯になってしまい それどころではなくなってしまうのです。 つまり、着陸の基礎練習が出来るか出来ないかが大きな違いなのです。 指導者に恵まれないまま始めてしまった飛行機の経験者は、ここでまず100%に近い確率で 着陸に至らずに「墜落」を経験することになってしまいます。これは大変危険なことであり、 近くの人家やそばで見ている人に危害を加えてしまうことも無きにしもあらずです。 このことから殆ど飛ばした実感のないまま2、3度墜落をさせて懲りて止めてしまった方は、 飛ばせるようになった方に比べ何十倍も存在するのが飛行機においては事実です。 着陸にしても上空飛行にしてもここで大事な事は、その人の技量に合った飛行機で始めること であり、しかも上空では穏やかにまっすぐ水平飛行を続けられるよう各舵のトリムが取れてい ることです。最初にこのトリムを取ってもらうことだけでも経験者が必要なのです。 ミス舵を打っているうちは着陸にトライすることは避けたほうがよく、上空飛行を安心して飛 ばすことが出来るようになるまで着陸は経験者におまかせするようにしなければ飛ばしに行く たびに新しい飛行機が必要になってしまいます。運良く自立安定性の高い機体をご自分で選ば れた方は「なんとか一人で飛ばし、着陸も出来たよ」ということもごく稀にありますが、飛ば し易く自立安定性の高い機体を未経験者が見抜くことが出来ないのがほとんどです。 指導者が仮に居なくてもコツコツと地表に近いところで練習することが出来るヘリコプターと 、とにかく上空に上げなくては始まらない飛行機とではここが大きく違うところなのです。 これから説明する内容は飛ばしたことが全くない方に対するものではなく、ある程度上空飛行 が出来て着陸がうまく出来ない方が対象となりますが、これから初めてみたい方も充分参考に なりますのでよく読んで理解して頂きたいと思います。 <これが分かれば難しくない> 案外、言われていませんが着陸を上手にコントロールする上で難しい舵の順番はどうなってい るかお分かりですか? それは @エレベータ Aエンコン Bエルロン Cラダー の順です。 CのラダーはBのエルロンを主たる舵として使用しますので4チャンネルの機体の場合は初心 者にとって動かさなくても着陸に差し支えありませんし、飛行技術が向上して高度な着陸をさ せるようになってから覚えればいいのです。 それでは何故エレベータが一番難しいのか?ですが、飛行機の姿勢を制御する上でいろいろな 役割をこのエレベータが担っているからなのです。 飛行姿勢の上下をコントロールすることが一番基本的な役割ですが、旋回中のバンクを維持さ せ高度を一定に保つ役割もこのエレベータが担います。 また、飛行速度によってもエレベータを打つ量は違ってきますし、低速での飛行ではごく僅か にトリム的に打ち続けなければなりません。 要するに一番ごまかしが利かないのが舵がエレベータであり、着陸でも最終旋回からはデリケ ートな量のエレベータを接地するまでコントロールし続けなくてはなりません。それを補うの がAのエンコンで、上手に機速を抑えながら出来るだけ低速で失速させることなく着陸に導く にはこの2つの舵(エンコンもあえて舵と言う)が重要なポイントになっているのです。 「出来るだけ低速で」と表現しましたが、大事な機体のライフを長く保つためにはランディン グ速度は低ければ低いほど良いのです。しかし、どこまで低速が可能かは失速に対しての経験 と知識が必要となって来ますので最初から高望みすることなく、低速でも失速しにくい機体を 選べば練習がし易くなります。(「失速」については本誌12月号に掲載しております) Bのエルロン(3チャンネル機の場合はラダー)は機体のロール方向をコントロールしますが、 初心者で一番打ち間違いを起こす舵です。後方から見ているときは良いのですが、自分に向か ってきて対面飛行になると逆に打ってしまうミスが発生します。 飛行高度がある程度高ければリカバリーも可能ですが、着陸寸前の低空にあっては即墜落して しまうことになります。早く逆打ちをしないように慣れる方法は、多くの指導者の教え方とし て「あたかも自分がパイロット席に座っているような視点でコントロールするように」と言わ れますが、簡単にはその境地にまで入れません。 これが出来れば一番良いのですが、もっと大事な事は「機体への反応を途切れさせない」こと なのです。要するにほんの僅かな舵をこまめに打つことで機体をコントロールし続けることな のです。思った逆の方向に傾いたらすぐにその逆に打つということに早く慣れることが重要な 要素で、頭で考えるよりも早く「見た目で打つ」ことに慣れてしまうことがコツだと言えます。 そのためにはスティックから常に指を離さないように習慣づけることです。 そうすることにより直前に打った舵の方向の感触が指に残り、次への反応を早くさせることが 頭で考えなくても出来るようになります。 ベテランもしょっちゅうミスの舵を打っていますが、見ている人に気付かせないほど小さく早 く、しかも落ち着いてその逆の舵を打っているのです。だから自分でもミスだとは思っていな いのが本当のところなのです。これがラジコンの肝(きも)なのです。 たとえば自動車を運転して直進走行しているときなど、常に様々な外乱などによりハンドルで 直進するための修正をしています。この時どちらの方向へハンドルを切るのかを考えて回して いる人はいません。目から入った情報に脳が反応して感覚的に手が動くのです。運転者はあら かじめ決めたルートから外れないようにしているだけなのです。 飛行経験が豊富な操縦者が考えているのは飛行ルートのイメージのみで、予定していない方向 へズレるのを防ぐため小さな舵を打ち続けているだけでアタマの中は案外、飛行とは全然関係 ない雑念だったりします。(笑) おおむね集中力を高めるのは、その日の飛行テーマ時か着陸時だけでしょう。 この飛行ルートをイメージしながら練習するのとしないのでは覚える早さが違ってきます。 ラジコン飛行機を飛ばす日は穏やかな日ばかりではなく、風が強い日や思わぬ突風が吹く日も あり、もし機体が着陸寸前で煽られても「機体への反応を途切れさせない」ことを身に付ける と、自分でもビックリするほど勝手に指が反応するようになります。 ヘリコプターの対面ホバリングなどもこの要領で覚えることが一番の早道です。 <無理に着陸させない> 着陸で壊してしまう方によく見受けられるのは、着陸を1回で決めようとしている人です。 高い高度からでも一度着陸させると決めたらダウンを打ってでも無理に高度を下げてきて、ま だ相当なスピードがあるにもかかわらず、とにかく着地させてしまいます。もうこれは激突と 言ってよく、これでは機体が悲鳴を上げてしまいます。こういった方に限って安定した場周飛 行がマスター出来ていなくて、着陸は出たとこ勝負でやってしまっています。 着陸態勢に入るのには楕円か長方形の形をした場周飛行を一定の高度で飛行できるように練習 することが重要になってきます。「着陸させたい」と思った時だけ最終旋回から徐々に高度を 下げて、滑走路上空を低空飛行させれば良いのです。スピードと高度を落とすのはあくまでも エンコンによって行います。エンコンを下げて推力が少なくなれば自然と機首を下げてきます ので、ゆっくりと一定に沈下をするようにエレベーターをほんのわずかアップにします。 ここから着陸するまではエレベーターから指を離してはいけません。打ち続けることによって そのスピードでのトリムをとった状態を保つのです。 そして進入コース・高度・スピード共に一番うまくいった時に着陸させれば良いのです。 決して無理に降ろさないで2〜3回トライをするつもりで着陸させるのです。 とにかく着陸態勢に入ったらエレベータのダウンは禁物です。着陸スピードが速くなってしま い滑走路をオーバーランしてしまうリスクが高まります。もしエレベータの吊りすぎで失速し そうになったときは躊躇しないでエンコンをふかしてやり直し(ゴー・アラウンド)をするよ うにしましょう。 また、沈下速度は急激な沈下を避け、穏やかに一定の沈下速度を保つようにすることです。 そして地面に近づき高度が1mを切ると徐々に地面効果が感じられるようになってきます。 この辺から沈下を遅くする為にエレベータのアップを少し強めるようにしますが、決して沈下 を完全に止めてしまわない、また再上昇はさせないようにして下さい。 地面効果を受けるようになると、エルロンは落ち着きを見せるようになりフラフラしなくなり ますが、機速がまだ早すぎるとこの地面効果の為、いつまでも接地(ランディング)しないで 予定したより伸びていく場合もあります。そのような時には落ち着いてエレベータアップを少 し緩めることで穏やかな着陸が完成するハズです。 また、どんなに失速を起こしやすい飛行機でも地面効果を受ける地上3〜40cmまで来ると、 打って変わってピタッと機体が安定することが多いようです。 理想は着陸寸前でやや頭上げ状態を保ち、飛行機が自らソフトランディングするように着陸さ せることが出来るようになることで、いつでもこのような着陸が出来るようになると機体が痛 まず、愛機を何十、何百回とフライトをさせることが可能となります。 <まとめとして> 先の項でも言いましたが、飛行機では着陸を覚えない限りその飛行は完結しません。 言い切ってしまうと「着陸がおもしろい」のです。完璧な着陸が出来るようになるとフライト そのものの楽しみが倍加するのです。 昔なかった物でその出現でラジコンの世界が大きく変わったのがフライトシミュレーターです。 これのおかげで全くの初心者でもソロトレーニングが可能となりましたが、反面、ラジコン屋 さんはだいぶ商売が「あがったり」になったことも事実です。 それぐらいこの世界で影響力を持ったフライトシミュレーターは初心者や上級者にはフライト トレーニングの強力な味方です。 着陸に対して自信が持てない方であれば、これを利用することも早期上達への最良の方法です。 私の所属するクラブで既に数人いますが、まったく飛行機の経験がないのに約1ヶ月間のシミ ュレーター練習で一人で飛ばせて着陸できるようになってしまったのです。これには私もビッ クリしましたが淡々と本人いわく「シミュレーターと同じでしたね」には参りました。 でもこのような方法に頼らず、足をガタガタさせて苦労して覚えるのも長く続ける秘訣です。 最初から便利な物に頼らず、少々難しいことにチャレンジすることで覚えた喜びも大きいモノ となることでしょう。シミュレーターはその後の部分練習が最も効果的で、実際の飛行の後日 練習でその実力を発揮します。バーチャルですべて覚えないことも大事なのです。 ここまでの説明が少しでも皆さんの参考になれば幸いです。 キレイな着陸を皆さんも早く身につけて、楽しいラジコンライフを続けられるよう頑張って練 習してください。                                    廣瀬 清一