FS−70 アルティメイト

編集部より届いた梱包を開けると、そこにはこれまでよりもひと回り大きいOS ENJ
INの化粧箱が入っていた。なるほど箱からしてOSが相当な自信を持って世に送り出す
だけのプライドさえも感じさせるデビューである。
さて、このエンジン、実力を試すにはどの機体に積めばいいのだろうか?手持ちの機体を
眺めながら迷うことしきり。結局、ホクセイモデル F−airか京商 マジェスティック
1400のいずれかに絞られた。F−airにはOS FS−52Sが搭載されていてホバ
リング、トルクロール性能にはとても満足している。当然、更にパワーのあるFS−70
アルティメイトに換装すれば結果は想像するに難くないが、なにより機体重量は1600
g前後なので軽量すぎて静止系の演技だけしか試すことができないだろう。フルパワーで
水平飛行など恐ろしくて出来っこないと思う。というわけでマジェスティックにすること
にして早速、 現在積んであるYS FZ53エンジンを降ろしにかかった。
このマジェスティックはこれまでに約40フライトを数え、F3Aパターンはなんのスト
レスもなくこなし、動翼の大面積、大打角も相まってトリッキーなアエロバティックなど
もお得意とする機体であり、私は気に入っている機体のひとつです。
そしてまた、元F3A世界チャンピオン、フランスのペイサン・ル・ルー氏設計のサイズ
ダウン機であることは皆さんもご存知のことと思います。
新エンジンであるOS FS70 アルティメイト(以下 アルティメイト)は燃料供給
システムとしてクランクケースからの圧力を燃料タンクへ加圧することにより、どんな姿
勢からも安定したスロットルレスポンスが得られる設計とされている。また、レギュレー
タは2系統としてスローからフルハイまでよどみのない回転とトルク感が引き出されるよ
うに進化している。スロットルボディもこれまでの回転ドラム式に変えてスライド式が採
用されているが、空用で実現できたのは何よりも優秀なポンプシステムによるところが大
きいのだと思います。特にスローからパワーを立ち上げたとき、姿勢変化が大きい飛行機
では回転が不安定になったり、回転ストールをするようでは使い物にならなかった。又は
コスト増を計算に入れられるだけの性能が実現できなかったのではないか。
そのような背景で出荷されたこのアルティメイトのスロットルとポンプシステムは見てい
るだけでも本当に美しいと感じます。
なぜ、コストが掛かっても積極的な燃料供給システムを採用するのかを簡単に説明します
と、皆さんも飛行機のピークあわせの仕上げに機体を上向きにしてニードルを絞っていっ
てエンジンが苦しくないところでセットしていると思いますが(してない人はしたほうが
いい)、この状態は燃料タンクが一番下になる状況をワザと作り、飛行中に燃料が希薄に
(リーン)なってもエンジンが止まらない事を確認するためなのです。実際の飛行中には
これに加えて縦Gが掛かっているのですから条件はもっと悪くなります。ですから水平飛
行中は燃料供給がやや濃い(リッチ)状態があたりまえで、頭を下げて上空から降下する
ときには更に濃くなってエンジンが止まりやすくなるのです。これにプラスして満タン時
と燃料が少なくなった時の条件が加わりますと・・・・・訳が判らなくなってきます。
いま説明したのを全部クリアしてくれるのが燃料ポンプシステムなのです。どんな姿勢で
飛んでいてもいつも最適な空燃比が得られるようになるのです。このエンジンで注意する
ことは最初にニードルセットをした以降、ガス欠ぐらいなものです。
この業界は不思議なもので優秀なエンジンが出現すると、ときによりそのエンジンに合わ
せた新しいカテゴリー(クラス)が出来ることがあります。最近では同じOSのFS52
ーSが挙げられます。同エンジンが発売されるまでは4サイクル50クラスの機体は数え
る程しか無かったが、その後は皆さんのよく知るところである。2サイクル32クラスも
しかり。機体によってはそのエンジン指定で出てくる事も最近は多くなった。アルティメ
イトにはそんな予感がします。機体設計者までをも魅了するエンジンが出現すると、それ
に合わせた機体を頭の中でで想像しながら設計し商品化できる設計者にとって、このとき
が一番幸せな瞬間なのだろうと思います。

さて、前置きが長くなりましたがマジェスティックに搭載しているYS FZ−53の単
体重量は460g、そして4サイクル70クラスながら徹底した軽量化を施されたアルテ
ィメイトは前モデルのFS70S−Uと比較して、なんと125gも軽量化されて50ク
ラス並みの455gで仕上がっている。
前モデルよりも遥かにパワーアップしているのにも関わらず大幅に軽量化できた秘訣は、
ショートストローク化によってクランクケース全高を低く抑えることができたことが一番
大きいのだと思う。エンジン全高はFS70S−Uに比べなんと13mmも低く、FS5
2Sと比較しても3mmしか高くない。一見して70クラスには見えないフォルムをして
いる。
余談だが実車の世界ではショートストローク(行程が内径を上回る為オーバースクエアと
も呼ばれる)化によって得られるメリットはピストンスピードが低く抑えられる点にある
。いわゆる同じ回転数でもピストンの絶対スピードが低いので摩擦抵抗が軽減され高回転
型にし易い点と、回転慣性が小さくなることにより素早いピックアップが得られる理由で
スポーツ車やレーシングエンジンなどによく採用されています。デメリットとしては回転
廻りの慣性が少ないのでトルク感が乏しくなる事とアクセルのパーシャル域が敏感になる
ためやや扱いにくい特性が出ることである。まあ現在ではコンピュータのプログラム設定
いかんでどのようなフィーリングも表現できるようになったとは言え、基本的にはやはり
実車の世界でも軽量化が一番のねらいです。
果たしてOSでは軽量化と高性能化のため前モデルからまったく新設計によりアルティメ
イトを登場させたのですが、50クラスの重量でこれまでの70クラス以上のパワーを身
に付けさせた意味は非常に大きいものがあります。なぜかと言えば搭載できる機体の選択
肢が無限にあるからです。私は常々思っているのですが初心者を卒業したら、あるいは初
心者からでもエンジンは指定よりやや大きめのサイズで飛ばした方が良いと思っています。
これによって常にフルパワーでなくても飛ばすことができ、思わぬパニック時でも余裕を
持ってリカバリーすることが可能になります。また、騒音の点でもフルパワーでギンギン
よりもずっと静かになります。機体にもよりますがアルティメイトは単体重量が50クラ
スとほぼ一緒なので、お手持ちの機体に換装することによって新たな世界が見えてくるの
ではないかと思います。

そんなことをあれやこれや頭の中で楽しみながらエンジンの積み替え作業を行いました。
まず、エンジンマウントサイズですが前エンジンのFZ−53とほぼ一緒でしたので何の
苦労も無く収まりました。ただし、キャブレター後部のレギュレータがマウントの基部に
当たりましたので(写真  )逃がしを与えました。燃料タンクの加圧対策はFZ−53
よりも低めの圧力との事でなんの心配も要りません。私のマジェスティックは写真の通り
マフラーを機体真下に取り廻すため、斜め下サイドマウントに変更してあります。
プラグ孔が真下を向かないため倒立エンジンよりも止まりにくく、プラグヒートもし易く
、またなによりも排気による機体の汚れが少なくなるのでオススメです。
エンコンリンケージ位置もほとんど同じだったので2時間足らずでエンジンの換装を無事
終了しましたが、パワーのあるエンジンに積み換えたときはフラッター対策も考えておい
た方がいいと思います。これまでにフラッターが出ていなくても機速は更に早くなるので
剛性感の無いリンケージですと非常に危険です。特にエレベータには注意が必要です。
私の機体はエレベータとラダーに平均的なバルサロッドを使用していますが、サーボに近
い所でピアノ線にノイズレスパイプを入れ、スクラップバルサに挟み込んでブレ止め加工
を施しました(写真  )。簡単ですが効果は絶大です。舵面を指で動かしてもタワミは
ほとんど出なくなりました。また、エルロンロッドも念のためアルミ製にしました。

さて、いよいよお待ちかねのフライトインプレッションです。プロペラはエンジン特性を
見るためAPCの12×7、12×8、12×9、13×6、13×7の5種類を持参し
ました。燃料はキグナスゲイン F3A−02 20−20、エンジン慣らしのため取説
指定の13×6をセットして2タンクほど地上で慣らし運転をします。アルティメイトは
新品にもかかわらず、スターターほんの数秒で気後れするほど簡単に掛かりました。OS
全般にいえることですが抜群の始動性です。地上慣らしが終わりフライトに入る前にニー
ドルをセットし直します。排気口からの煙の出方を注意深く見ながらニードルを戻してい
きます。排気煙が通常フライトより少し多くなる所まで甘めにセットしました。
ピークからは45度ほど戻していますがパワー感は充分です。初フライトはタテモノや急
激な引き起こしは避けてフライトさせました。ちょっと早いですが2タンク目からはその
ままのニードルセットでループ、垂直上昇、背面、ありとあらゆる演技をしてみましたが
驚いたことにナイフエッジではそのままナイフエッジループに入るべくどんどん上昇して
しまいました。前エンジンではゆるやかな上昇をするものの明らかに飛行速度が上がって
いるようです。エンジン音は前エンジンよりもマイルドで静かになった為、飛行速度が以
前より早くなったのに気付かなかったようでした。垂直上昇にしてもどこまでもタレずに
引き上げていきます。明らかにオーバーパワーなのですが、音質がマイルドで静かなので
恐怖感が湧かずとても快適です。
「何だ!このトルク感は!!」思わず口をついて出ていました。ピーキーな感覚はまったく
無く、まるでロングストロークのフィーリングです。
ポンプシステムとのマッチングも絶妙な組み合わせとなっており、どのスロットル開度か
らでもリニアに回転がついてきます。言葉で伝えるのが難しいのですが、その回転が唐突
でないのは例えて言うならプロポのエクスポネンシャルのようなものでしょうか。
ハイパワー=ピーキーという予測は完全にはずれてしまいましたが、スムーズな回転特性
というものは設計の段階では簡単には引き出せないものです。
こうしてフライト毎にニードルを少しずつ絞りながら最良点を探りましたが、エンジン特
性は大きく変化することなくマイルドなままです。その間、持参したプロペラを交換しな
がらマッチングを調べましたが、これは表 1にまとめましたので参考にしてください。   
 表 1

  12×7  10900rpm   フライトには問題ないが少し滑っている感じ

  12×8  10200rpm   回転の付き、引きともに現在のベストマッチ

  12×9   9600rpm   オーバーロード、静かだが登りが苦しい

  13×6  10400rpm   機速は足りないが機体によってはこれも良い

  13×7   9800rpm   一番静かだが付きが悪い。もう少し慣れれば良


こうしてフライト数を重ねながらアルティメイトのモニターをさせて頂きましたが、外気
温30度を超える悪条件にもかかわらず益々エンジンは快調です。今のところ欠点らしい
欠点は見当たりませんが、ひとつだけ気になるところがありました。
プロペラを換えている時の何回目かに、ニードルはその都度調整していましたがスロー安
定とピックアップが悪くなったので調べてみますと、プラグのフィラメントが変形してい
ました。プラグの番手はOSのFですがこの症状が2度ほど起こりました。
決して絞り過ぎではなかったし、いつまでもプラグヒートしていた訳でもなかったのです
が原因は不明です。その後、10フライト位こなしても問題は再発していませんので余り
気にする必要性はないとは思いますが・・・。
ともかくこのアルティメイトはこれまでにない概念で作られ、しかも扱いの難しさもない
非常に優れたエンジンであることは楽しみながら確認できました。
メリットこそあれデメリットが見当たらないアルティメイトは、決してスタント志向の人
だけのエンジンではなく、スケール機やスポーツ機などにも最適であると確信します。
フライトにご協力頂いた高丸晃司氏と佐藤編集長に感謝し、この辺でペンを置きます。

                               廣瀬 清一