<OS MAX−46AX インプレッション>

モノみな下がるデフレ時代に価格が下がるのだけがデフレの特徴ではなく、価格は据え置き
内容・価値を上げることもこの時代の特徴ともいえるのが今回のOSニューエンジンの発表
でまず感じたことでした。
これまでのOS2サイクルエンジンのラインナップには中・上級者向けの「FX、SXシリ
ーズ」と初級者向けの「LAシリーズ」があって、それぞれのエンジンを機体搭載する際の
選択に皆さんはそんなに迷うことなくチョイス出来たことと思います。
エンジン選択の第1には排気量で機体ボリュームに合わせ、第2には出力特性でハイパワー
型か扱い易い普及型にするか、第3には予算でとユーザーにはこれに加えメーカーの選択ま
で有るのですから本当に贅沢な時代と言えます。
しかも飽きっぽくて、おまけに目の肥えた日本人には次から次へとリリースされる新製品の
ほんの一部だけを選ぶだけで良く、わがままな趣味人に対するメーカーさんのご苦労には本
当に頭が下がる思いです。
でも、こんな日本人を相手に商売をしているからこそ、世界中のどんなマーケットに出して
も恥ずかしくない優秀な製品が出来ているのも事実で、飽くなき開発のデータ収集には要求
レベルの高いユーザーがたくさんいる日本という国だからということが言えると思います。
その日本が誇る世界のトップメーカーであるOSから新製品が出るということはこれはもう
事件です。しかもネーミングはこれまで聞いたこともない「AX」なんです。「P−BOX
サイレンサー」というのも初耳です。果たしてどんなコンセプトのエンジンなのだろうか?
とお思いの方は私以外にもたくさん居たことだと思います。

 −FXシリーズは今後どうなるのか?−

これまでにも同社の同じクラスにとても優秀な「46FX」が存在しており、私もこれを
使用していてなんの不満も無かったのですが、つい最近、「50SX−RING」が発売
されたときには「46FX]に取って代わるものが出されたと感じていました。
でもよく考えてみればこの「50SX−RING]はヘリ用で出された「50SXH−R
ING」の飛行機版であろうことが推察されます。モアパワーが要求されていたヘリ用の
50クラスに投入されたこのエンジンは市場の要求にドンピシャで出されたものです。
ヘリだけでは勿体無いので飛行機用にもと考えたのではないのでしょうか?(OSさん、
ゴメンナサイ)でもこの時点での価格差は46の17000円に対して50の21000
円と結構な差があったので選択の余地があったのです。
RC−FANでもこの50SX−RINGを10月号で紹介していて、モデルクラフトの
ワールドスター40に搭載した記事を覚えている方もおられるのではないかと思いますが
リングエンジンということも有りとても滑らか、かつパワフルなエンジンだったことを飛
行させた私も記憶に留めています。
それから間もなくして今回のプラモデル・ラジコンショーでの「46AX」発表には正直
驚くと同時に「FX」は今後どうなっていくのだろうかと感じました。
世界規模のマーケットの主流はアッパーミドルクラスの40〜46クラスであり、このク
ラスでNO.1の地位を得ておく必要がメーカーにはあります。 であるからして25や
60クラスからではなく、この40〜46クラスからニューモデルをリリースさせたので
あろうと推察しますが、日本でも最近では25クラスの機体があまり活発に出されなくな
ってきており、代わって40〜46クラスの機体が多くなってきているのが事実です。
海外生産されている機体サイズの中心はやはりこのサイズであることは皆さんもよくご存
知のことと思います。そして、これから説明します事柄をご理解頂ければFXに取って代
わる(のであろう)AX出現の意味がお分かりいただけるのではないかと思います。

 −FXとAXを比較してみる−

たまたま私の手許に未使用の46FXがありましたので両方のエンジンを分解して比較す
る事にしました。分解する前に外観上の違いを挙げると
  @双方に互換性はほとんどなく、AXが新開発のエンジンであることが判る。エンジ
   ン特性を決定づけるボア×ストロークは同一サイズ。
  AシリンダヘッドのボルトがFXの6本からAXは4本締めとなっている。 これは
   シリンダライナーのトップ形状がヘッド側に入れ込むスタイルとして歪みが出にく
   くしてあるため、4本でもしっかりホールド出来るからであろう。
  Bキャブレターも新設計、吸入孔のメインボア〈口径)は同じサイズ。ニードル部も
   新設計で取り付け位置を変更できるようにしている。
  Cマフラーは内部の容量を大きくして特性の変更とさらなるハイパワー化を実現。
   本体の肉厚を厚くすることも消音に寄与しているのだと思う。(20g増量)
  D取り付けマウントのディメンションは同一でFXから簡単に換装できる。
となっています。

また、分解して比較したところの違いは
  @AXのクランクシャフトは後方から見て左右非対称となっていてシャフト吸入ポー
   トの反対側をバランス分として重くしてあり、回転マスの均一化を考慮してある。
  Aそのシャフトの吸入孔は半球状にミル加工してあり、混合気をスムーズに導入させ
   られるように加工してある。また、シャフト内の容積を小さくすることで1次圧縮
   が高められている。(これはエンジン性能アップにおいて重要な要素)
  Bシリンダ内の各ポートのタイミング位置は双方ともほぼ同一。排気ポートの形状の
   み、サイド側をテーパー状に変更。ライナーそのものには互換性はない。
  CピストンはFXのアルミ鋳造品からAXは超硬アルミ削り出し品に変更してあり、
   熱変形に強い材質としている。ピストンスカートもゆるやかな曲線形状に変更。
  Dキャブ本体内のメータリングニードル(スロー調整ネジ)の見直しが図られており
   スロー安定の向上とスローからハイにした時にスムーズな回転上昇を得られるよう
   にリファインされている。
大きな変更点は大体挙げたとおりですが、なにしろ新設計エンジンなので気づいていない
点もまだまだ有ると思います。でも、読者の皆さんの興味は細かい説明よりも「だから、
実際に飛ばしてみてFXより何がどう進化しているんだ?」と言うことだと思いますが、
もう少し説明にお付き合いください。
これを簡単な言葉でいえば「ファインチューニング」であると言うことが出来ると思いま
す。私はすでにFXは完成の域にあったエンジンだと思っていましたので、こんなに早く
AXなるものが出てくると思っていなかったので驚いたのです。
FXを超える全く新しい次元のモノなど想像できなくて、じゃあ、今なぜ新しいエンジン
の発表が必要だったのか?それはメーカーとしてこのカテゴリーで圧倒的な優位に立つ事
が本当のねらいだったのではないかと思っております。
冒頭でもご説明した通り、このクラスは世界中で一番大きなシェアを占めるクラスなので
流通量も相当大きく、追従する他メーカーはOSに追いつけ、追い越せとしのぎを削って
いるのです。
前出の「ファインチューニング」ですが昔、市販車のエンジンを殆んど部品を変えないで
アッと驚く性能にアップするチューナーがおりました。滑らかにどこまでも天井知らずに
回転するエンジンに仕立て上げ、まるでマジックのようでしたが、何をしたかというと基
本はクランクシャフトの入念なバランス取り、カムシャフトも同様にバランス取り、コン
ロッドの1本1本の重量合わせ、ピストン1個1個の重量合わせなどをしたのです。
たったこれだけのようですがエンジンは魔法が掛かったように元気になり、まるで別物の
ように生まれ変わります。世界中の自動車メーカーで市販車にここまでやっているのはベ
ンツとBMW位いで、だから嫌な振動もなくキレイに回るのですがコストも掛かります。
勝手な推測ですが、私はだからAXをファインチューニングと見たのです。そして廻して
みてハッキリと確信しました。

 −素晴らしい性能−

エンジンを受け取ってからたったの5日間で原稿を出せ、という編集長も編集長です。
明日から2日間は出張で実質3日しかありません。「鬼!人でなし!」とは言えませんで
したが受ける私もただのスキモノ、やっぱり試してみたいと思うところが笑えます。
「このくらい仕事に打ち込めれば苦労しなくて済むのに!」とのたまう女房の言葉を背に
時間の関係上、先月テストしたブラックホースモデルのSUPER STAR 40にエ
ンジンを換装します。この機体は前縁テーパー対称翼の主翼を持つスポーツ機でエンジン
は正立搭載の機体です。とても飛ばし易く、クセもないのでテスト機として格好です。
テストしたときに積んでいたのが同じOSのMAX−46LAでしたが、AXは縦方向の
ピッチサークルは17.5m/mと同一ですがクランクケース幅のビス位置が44m/m、LAは
40.5m/mと3.5m/mほど大きくなっています。しかし、樹脂製マウントの良いところで
押し込んだら簡単に収まってしまいました。機体側のニードル部の切り込みもまったく同
じ所に収まりました。

その翌日にはもうすでに飛行場です。噂の新作エンジンをクラブ員が珍しそうに取り囲み
談義を始めています。燃料はコスモトレーディングのブラックスペシャル、ニトロ15%
オイル含有率18%を使用して、まずは慣らし運転を始めます。
プロペラは低ロードのAPC11×6を取り付けてクランクしますが、ピストントップ位
置は嵌め合いがきつく、リングなしのエンジン特徴はそのままです。
キャブを全開にし、指で吸入孔を塞いで燃料を呼び込むチョーキングをすると適量の燃料
がキャブに流れ込みました。いつも心配するのは新品時にこのきついピストンでそれ自体
やシリンダライナーにキズが付かないのだろうかと思っていますが、適量の燃料が入れば
少し安心します。手動でプロペラをクランクすること数回でAXは回転を始めました。
始動性は相変わらず良好でOSの伝統でもあることを再確認、ボトボト回転で1タンク程
慣らし運転をしますがその間にニードルを締めたり緩めたりしながら熱を掛けたり冷まし
たりさせます。
1タンク消費させた時点でプロペラを廻すと殆んど引っ掛かりがない状態になっていまし
たので、甘めでフライトさせる事にしました。
SUPER STAR 40はほんの数メーターの助走で離陸して行きました。旋回をし
て飛行場上空に戻ってくると相当なスピードで前方を通過して行くのです。まだスローも
出せない甘めの飛行なのにトップスピードはとても速く感じます。このままでもパターン
は充分にこなせますし、実際にやってのけました。
フライトの2タンク目はニードルを2コマ締め、スローの調整もしておきます。ニードル
開度は全閉から1回と3/4開けたところになっており、ピークからは約60度程度戻し
た所のそれでも甘めのセットなのですが地上での引きは相当に凄いものです。
離陸直後に垂直上昇を試みましたがスピードを落とさずどこまでも機体を引っ張り上げて
いきます。P−BOXサイレンサーはやはりFXより静かになっており、フルハイで目前
を通過させても音による圧迫感はあまり感じませんでしたし、音質そのものはFXとほぼ
同じと感じました。クラブ員も一様に静かなエンジンだと感想を述べていました。
また、一番気に入った点は中スローからハイにかけての回転の付きです。本当に滑らかに
なっており、グズついたりモタついたりが全くありません。そして、あとから気が付いた
のですが、いつもより飛行エリアが大きくなっていた点です。ループも超デカい円を上昇
スピードが落ちることなく描けていたし、左右の飛行幅が知らずに大きくなっていたこと
です。遠くまで持っていってもアッという間に戻せるからなのです。前方への距離も同様
でした。これは機体も違いますがFXのときには感じなかったことなのです。
本当に感覚的なレポートしか出来なくて参考にならないと思いますが、私なりに総括すれ
ばこれまでのFXに不満がなかったのにAXは扱い易さはそのままに更に進化を遂げた新
世代エンジンであるということが言えるのではないかと思いました。

                              廣瀬 清